【読書】奇跡の脳

奇跡の脳
奇跡の脳 
ジル・ボルト・テイラー・著 竹内薫・訳 /新潮社

脳解剖学者である著者自らが脳卒中で倒れ、左脳の機能を失ってから、回復するに至るまでを記録した本。
脳に障害を受けた人が、どんな体験をし、どう感じているのか
回復の段階で、どういった体験をしているのか
非常に興味深いです。

左脳の機能を失ったということは、物事を順序立ててとらえたり考えたりすることはもちろん、言葉を理解したり発したりということもできません。
当然、周囲の人間には、本人がどういう状態にあるのか知ることはできません。
そういうケースに出会ってしまったときに、少しでも役に立って欲しいというのが著者の願いであり、私もそう感じました。

興味深かったのは、一時的に左脳を失い、「右脳のみ」となった著者が、恐怖や苦痛ではなく、「限りない幸せ」を感じていた、ということです。
人は、何らかの刺激や周囲あるいは自分の状況、過去の体験や未来の見通しについて、喜びや希望を感じると同時に、不安や恐怖を抱きます。
しかし、そういった何らかの刺激にたいする「感情、考え」は、すべて左脳がもたらす「物語」。
過去も未来も因果関係もなく、ただ今、ここにある刺激をそのままに受け止めているという状態(右脳による刺激受容のみ)では、ただひたすら幸せだ、というのです。
さらには、自分の体と外界との境目も感じなくなり(これは左脳の仕事)、外界の全エネルギーと一体化しているという感覚にも包まれるといいます。
人は、ただ生まれてそこにいるだけで良い。
現代社会ではしばしばそのことが許されず、自分で自分を評価できなくなってしまったりしがちです。しかし、「本来的な生き物としての存在価値」=「生きている、そのこと自体が奇跡であり幸せである」…しばしば宗教的哲学的に言われることが、この本にも書かれていて、そのことに感動を覚えました。


前半は著者の回復プロセスについて、
周囲の人間が(心配や絶望の気持ちではなく)希望を持って、常に前向きな刺激を与えること、十分に睡眠をとらせること、できなかったことではなく、できるようになったことにひたすらフォーカスし祝福すること…それは母親が赤ん坊に接するのと全く同じだ、と思いました…がどれだけ脳の回復(成長とも言えます)に役立つか、ということが書かれています。

後半は、左脳の機能を回復しつつある著者が、しかし、左脳によってもたらされる余計な物語…ネガティブ、攻撃的、悲観的…に再びとらわれず、右脳がもたらす根源的な幸福感を持ったままいかに社会に対応していくのか、哲学的ともいえる考えと取り組みがまとめられています。
その中には、宗教的、スピリチュアル的とも捉えられそうな内容がしばしば出てきますので、場合によっては拒否反応(あるいは理解できない)を示す人もいるかも。
でも、「より良く生きたい」と考える人であれば(私自身も含めて!)ぜひ一度トライしてみて、と思うことばかりです。
目の前で起きていることを、すぐに評価せず、ありのままに受け入れること。
何か刺激を受けた場合、瞬間的には不快感を覚えるかもしれませんが、生理的なその反応(著者によると90秒)をやりすごした後は、左脳によるネガティブな物語にひきずられずに、自分にとって平和をもたらす「思考回路」を、自らの心掛けによってつくってみること。

★5つ、プラスαα。