映画「父の初七日」(父後七日)

台湾映画「父の初七日」(原題「父後七日」)を観てきました。
これがかなり面白かった。
面白い…興味深い、という意味でも、笑える、という意味でもです。

突然亡くなった父の葬儀までの7日間を、田舎で父と暮らしていた兄、都会でキャリアウーマンとして働く妹、同じく都会の大学生である甥っ子の3人を中心に描くのですが、まず、現代の先進国の、都会と田舎の距離感の描き方がとても上手い。
いや、私自身は祖父母時代から大阪ぐらしで、所謂田舎というのはないのですが、きっとこんな感じだろうなーという感覚。
田舎にはよくわからない風習があり、面倒くさい人間関係がある。自分の故郷だからそれなりに愛情を持って受け入れているんだけど、なんとなく距離感も持っている、そんな感じ。

それから、葬儀のこと。日本に住む私たちも同じだと思いますが、はっきり言って、葬儀の諸々の決まりごとなんてよくわかりません。
身内が亡くなったら、何が何やらわからぬままに、親戚や葬儀屋さんの言うままに事が進んでいって…というのはよくあるパターンじゃないでしょうか。
その、本人たちの、真面目なのによくわからない…という感じがとてもよく伝わってきました。
肉親を失った悲しみに向きあう暇もなく、次々押し寄せる出来事に振り回される兄妹の様子に、可笑しさを感じたり、共感したり。
大切な当人たちの感情を置き去りに、形だけの風習にこだわるなんて…と憤る向きもありましょうが、私は、めちゃくちゃかもしれないけどこれでいいんじゃないかなぁなんて思いながら鑑賞しました。私の父が亡くなった時のことについて、後から母が言っていたことを思い出したからです。
(日本の仏式の場合)お通夜、告別式、初七日、一周忌、三回忌…という行事が続く。人が集まる行事が、最初は密に、そしてだんだん時間を置いて行われることになっている。集まってくれる人数も、徐々に少なくなっていく。それは、単なる宗教的な決まりごとに見えて、実際遺された遺族が悲しみから立ち直っていく過程に沿っているんだと。
儀式というのは、本人のためであるというフリをしながら、実のところ周囲の人間のためにあるのかもしれないなぁ。葬儀に限らず、結婚式や成人式なんかも、みんなそんな側面が実は大きいように思います。

あと、日本人にとって興味深いのはこの映画で描かれる葬儀が(台湾では一般的なのかな?)道教のものであるということ。
道教について全く知識がない人間からすると、ここはひたすら興味深い。
泣き女?葬儀に楽隊が登場?お経が賑やか!弔客にはこう対応するのか…などなど。

ここに、次々とやってくる関係者がそれぞれの思惑を持って(もちろん本人たちはそれぞれ真剣)絡んでくる様子を、客観的に映しだすので、共感しながらも、興味を惹かれながらも、やっぱり笑ってしまうのです。

「客観的に映しだす」というところは、この映画の一番のポイントだったと思います。
都会と田舎の距離感、現代に生きる私たちにとっての、葬儀という伝統儀式に対する距離感、肉親を亡くした人間の感情と、次々押し寄せる「現実」との距離感、父と娘の距離感、叔父と甥の距離感、昔の恋人との距離感、世代間の距離感。
決して冷たいわけでなく、それぞれにそれぞれを受け入れながら、でもちょっと距離がある感じ。
その距離感の捉え方の上手さが、ベタベタの家族ものでも冷たすぎる現代人ものでも、単なるコメディでもない、良い作品を作ったのじゃないかと思いました。
馴染みのない文化を知りながらも、笑え、共感してしまう。
おすすめ作品です。

蛇足。
少し話が逸れますが、ここのところ、しばしば心に浮かぶキーワードに「同時代性」というのがあります。
海外の映画を見たり、海外の若者〜同世代の言葉を見聞きしたりするにつれ、感じる、同時代性。
一昔前なら、例えばヒット曲一つとっても伝わるのに時間があったはずです。もしくは、「遅れている自分の国(日本)」に対して「憧れの最先端の国(アメリカだったりヨーロッパ諸国だったり)」という図式があったはずです。
でも、今はほとんど同時に、流行を共有している。もちろん、同時にそれぞれの地域性というのもあるんだけど、確実に全世界同時に共有している空気というのがある。
このことは1年くらい前に見た映画ドイツ映画「ソウルキッチン」でも、先月の大阪アジアン映画祭で見たマレーシア映画「ナシレマ2.0」でも感じました。台湾原住民ミュージシャンsumingの「僕は原住民だけど原始人じゃない。同じ時代に生きてるんだ」という言葉も印象的です。
今回も、台湾(…は、外国の中では比較的日本に近いものがあると思いますが)の都会を生活拠点とするほぼ同世代の感覚を、ほぼ違和感なく共有できたと思います。
この同時代性というのだけは、上の世代が一度も持たなかったもの。この空気をリアルに吸っている世代が、今後の世界に何かしらおもしろい影響を与えていくんだろうという予感がするのです。

2 thoughts on “映画「父の初七日」(父後七日)”

  1. >泣き女?葬儀に楽隊が登場?お経が賑やか?

    shokoさんへ
    夫婦で映画見ました。
    マレーシア福建人でも「道教」おおいのです。K曰く、60%は同じだ!
    台湾の農村よりもPenangは(ちょっぴり)都会なので、楽隊はもっとにぎやか、あの世で困らないように焼く外車は(ベンツ)だって。
    Kが日本でもしも・・の時に困るから、日本在住の間は元気でいてほしい。そして老後はマレーシア生活、かな。道教さっぱり知らんし・・

  2. ベンツ!!本物??
    確かに、日本で道教だとどうしようもないですね。
    お葬式の様子なんて、現地に住んでいたとしてもなかなか知ることができないと思うので、そういう意味でも良い映画でしたー。

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